【治療】①

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緑の葉のような羽を付けた妖精

案の定、母親はパニックになった。診断結果を説明する医師の話を制して「健康診断は受けていなかったのか」とがなった。とにかく犯人探しをして何かのせいにしたいのだ。自分に火の粉がかからないように。医師はボソッと「今、そういうお話は(やらなくても)いいでしょう」と呆れる。私が言っても聞かないが他人に言われると言い返せない。母が黙ると医師は続けて今後の治療方針を説明しだす。まず、骨を調べます。転移がなければ治療に入ります。抗がん剤、手術、放射線の順で。医師が母親に目配せをした気がした。すかさず母は「するでしょ」と私を睨む。「します」有無を言わせず勝手に返事する。出た。私は苦々しく唇を固く閉じる。「と、言うことで骨の検査しましょう」骨に転移があると治療はない。それはそれで恐怖でしかないが治療はというと納得していない。私は検査を待つ間悶々としながらまずは敵を始末しなければならなかった。敵は待合室でいきなり泣き出した。外食ばかりしていたからだとか、生活態度が悪いからだとか、泣きながら、もう五月蠅い。治療なんかしたくねえ。私は頭にきて「静かにしてくんない。ほかの人迷惑してんじゃん」敵は「親にむかって」と決め台詞で対抗する。「だから。聞いてる?迷惑っての」これを三回ほど繰り返すとやっと静かになる。そしてこれ見よがしにため息をつき、しくしく悲劇のヒロインでキメて来た。ちょうどいいタイミングで看護師に検査室に呼ばれた。看護師は苦笑いしながら「面白いお母さまですね」と言った。検査室に丸聞こえでクスクス笑っていたそうだ。私は恐縮して謝った。面倒くせえ。いえっちのところに行きてえ。

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