【ステージ3】②

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打ち上げられた人魚

物凄く晴れた日だった。土曜日の早い時間だからか道路はすいていて快適なドライブだった。駐車場は大きくはなかったがすぐに駐車することが出来た。待合室は年配の女性が多かった。数少ない若い人はパートナーと思われる男性と一緒に座っている。私は名前を呼ばれてエコー室に案内された。言われるまま機械のそばの診察台に横たわる。技師のお姉さんは黙々と仕事をこなしていた。私は不安で戯言を吐く。技師のお姉さんは「少し冷たいです」そう言ってジェルを胸部に乗せる。時々、手を止めてじっと機械の画面を見る。そして黙々と作業を続ける。私も次第に沈黙した。薄暗い部屋の中で機械音だけが響いていた。

 私は妄想族です。小学生の頃の憧れの相手は二次元の世界にいた。二次元から卒業してからはもっぱら自分の作り出す理想を妄想して浸っていた。いや、お薬でもしてるんかい、と思うほど何時間でも妄想してた。なので嫌な感じになると妄想に逃げる癖にがついていた。きっと医者はイケメンだとか、いや~、恋が始まっちゃったらどうするよ、とか。エコーが終わって診察を待つ間イケメンの医師相手に告られたシチュエーションばかり妄想していた。名前を呼ばれ扉を開けると白衣の医師がパソコンの前に座っていた。パソコンを向いていた横顔のまま医師はちらりとこちらを見た。私は看護師の案内で医師の前に座った。横顔のまま「えーっと」と切り出した。えーっとの後に続く言葉に私は「はい?」みたいなことを言いヘラヘラしていた。医師は少しムッとしたようだった。「笑い事じゃないんですよ」そう言って鼻で笑ったような気もした。医師はそんな仕草をしながら改めて私に体を向き合わせた。少しだけ厳しい面持ちになりそれから何かを取って何かを調べる。次の予約はいつです。突如医師は饒舌になる。顔に赤みが増しうっすら張り切りだしている気がした。貴様セールスマンかよ。口をパクパクして金魚みてーだな。何言ってんだよおっさん。私は、思いながら医師を眺めてる。

余談ですが「癌」とい言葉を聞いたとき「がーん」ってなりました。文字にするとしょーもないんですが、本当に「がーん」ってまんがのあの文字が頭の中で音とも文字とも表現できない感じで「がーん」ときたんです。妄想は吹っ飛び、現実を叩きつけられる。いつまでヘラヘラしていられるか、自分。

 医師の「ステージ4かも」と言う言葉が重くのしかかった。後はベルトコンベアーにのせられた商品と同じ運命を辿る。やることは他のがん患者と同じ決められた工程を進むだけだ。看護師に誘導されるまま診察台に横たわる。検査のために細胞を取るだとかもう忘れたけど、何か切られ、血がぷしゅーとしていわゆる花咲乳がん (?)が、それこそ真っ赤に染まり薔薇の様相で私は痛さと少し我に返って事の重大さに気づいたりで号泣した。胎児のように丸くなり嗚咽する私を上から見つめる私が居たのを鮮明に覚えている。

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